ゴミ屋敷のこんな変化
昔は1、200カロリーの配給量でしたから、大変でした。
食べ物を何よりも大事にする、という習慣や考え方は、そういう個人的世代的な体験を経て、僕らの体に叩きこまれたのです。
食べ物を粗末にし、自分で選んできたものも平気で残す、という最近のヤングの傾向に、あんなムダに馴れて果たして大丈夫なんだろうかと、うそ寒いものを覚えてならないのです。
食べ物といういわば実存次元でのテーマにつよい関心をもち、その生産や配分、農業や水産業に素人のくせに興味をもつのもそのためです。
ヒトにとって世の中何が大切だといって食べ物関連のいろいろな営みにまさるものはありえません。
実存レベルの真実、ということです。
食べ物を粗末にするのは、自分と他者のいのちを粗末にすることとイコールですから世界人口が年に確実に増えるにもかかわらず、食料を生産する手段、たとえば農地とか水がその割で増えない現状を思うと、農水産業の現状を客観的かつ正確に見据え、その未来に思いをいたすことは、現代人として欠くことのできない心構えといえるでしょう。
そういう心構えを欠くことは、自分と自分の愛する同胞や子孫の現在と未来に無関心な、非人間的かつ無神経な存在ということになります。
ましてや「国際人」などと自称することなんぞできよう筈はありません。
いま世界で栄養失調、ないしは飢えで命を落としている五才以下の子どもは、日に数万人にのぼる、といわれています。
一分間に数十人、というのですからすさまじい勢いです。
ですから、国内にありあまる程の余剰食料をもち、世界中からありとあらゆる農水産物を買い漁るだけの金銭をもち、あまりひどい風土病などが少なく、幸い健康に恵まれている人の多い日本にあっては、そういう想像力を働かせるのは決してやさしいことではありません。
食べるものが十分に存在し、それを手に入れるだけの経済力をもち、食物を摂取する健康状態というこの三つの条件を全部満たしているのは、時代的にも地域的にもきわめて稀な、その意味で「有り難い」あることが難い幸せな状態なのです。
このような経緯について世界大で綿密な調査を行い、時に応じて適切な警告を発し、われわれの関心を喚起することに懸命の努力を払ってきたのが、LのB博士であり、彼が主宰する(その名も)世界監視研究所であり、そこが出す月刊誌や年次報告書なのです。
これまた中国の古いことばに、「八政は食に始まる」というのがあります。
八政とは、政治や行政のいろいろな分野を指します。
教育とか財政、生産とか福祉、など人間にとって大事なことはいろいろあり、夫々、文部、大蔵、通産、厚生というような各省庁が担当するわけですが、その中でもいちばん重要なのは食料だ、というのが『周典』というすさまじく古い中国の文献に出てくることばですが、まさにその通りなのですね。
B氏は、この古い中国の言葉を文字通り現代に活かし、自ら実践するばかりか、世界的に広範かつ詳細な調査を行い、折にふれて警告を発してきたその人なのです。
全世界の政治家や行政担当者が先を争ってB氏と会う機会を求め、その英知の声に耳を傾けようとするのは、まさに「八政は食に始まる」ことを日々実感させられているからに他なりません。
日本、とくにぼく自身の限られた交友関係に限っても、たとえば、ミスター・クリーンの名で知られたM元首相は、B氏との話合いを大事にした一人でした。
お互いに環境問題につよい関心を共有していることを知った小生は、両者の仲立ちを思い立ち、会うことを望むかとお二人それぞれに尋ねたところ、ぜひに、ということになりました。
B氏のことは、若き日にアメリカで学び、国際情勢につよい関心をもつMさんはよく知っていました。
逆にMさんが、首相になる前に環境庁長官をつとめ、大気汚染や水質汚濁の問題に懸命に取り組み、とくに自動車の排気ガス規制に積極的で、T内閣の環境庁長官辞任に際しては、そのきびしい規制に閉口していた大手の車メーカーが、祝杯をあげて歓迎した、というようなことでしたから、B氏もよく、知っていました。
もっともM長官のもと、きびしい排気ガス規制をクリヤーしていたことが、その後に、日本車が欧米でよく売れたことの主だった一因だったのですから皮肉ではあります。
アメリカの有力な政治家でのちにK政権の国務長官をつとめ、Mさんの親しい友人でもあったM(メイン州選出)上院議員の、大気・水質改善についてのいわゆるマスキー法はBさんはもとより大賛成ですし、マスキー法の日本版をアメリカ本国より早く通した人としてMさんのことも聞き及んでいたのでした。
たしか3回ほどM・ブラウン会談がもたれ、何れも小生が立ち会いました。
もう20年も前のことです。
さいしょの出会いのとき、Mさんは「いまアメリカでの最大の環境問題は何ですか」とズバリ訊ねたものでした。
ただBさんの「それは深刻な土壌破壊です」という答えには流石のMさんもびっくりしたようでした。
マスキー法案とのからみもあり、「大気汚染」ないしは「水質汚濁」という答えを予想していたからです。
かねて農業、食料問題に深い関心と強い懸念を寄せてきたB氏にとり、土壌破壊というのは、国のもといを危うくする一番の環境問題だったのです。
かつてニューディール政策で知られるF大統領が、極度の表土の流失現象に直面して、「土の滅びは国の滅び」というスローガンのもと、土壌保全部隊を設け、表土流失の防止に全力をあげたのは、日本でいうと昭和のはじめでした。
日本のクズが土壌崩壊の防止のためにアメリカ、とくに南西部に移植され、今日ではいささか繁茂しすぎて厄介者扱いを受けているのは面白いエピソードです。
いまは中国の内陸部の土壌保全用に活用されていることを興味深く思うとともに、移植しようという日中共同の試みの成功を熱願します。
なおここで、作物にとっての土の重要性を示すことばとして、特異な作家として著名だったSの「土、もののいのちここに創まる」をご紹介しておきましょう。
創まるをはじまると読ませているところにSさんの深い思想がやどっています。
ご主人も高名な農民作家でした。
小生が数年前、参議院の予算委員会のメンバーとして「土の日」の制定を唱え、同委員会の議題の一つに持ち出したのも、かねて敬愛してやまないSさんのこのことばに触発されてのことでした。
すでに祭日がたくさんありすぎて、というような他愛のない事由で成立しなかったのは、自らの国会議員としての力不足を示すものとして恥ずかしくも惜しいかぎりです。
今日なお、土壌というもののかけがえのない大切さをここでくりかえしておきます。
Mさん以外にも、公明党(当時)の参議院議員で、のちに環境庁長官をつとめたHさん、それに環境ジャーナリストの会を立ち上げ、のちに鎌倉市長に選ばれ、古都の環境と景観の保全に全力投球しているT現市長のご両所がぜひB氏に面会をと強く要望、首都ワシントン特別区は中心部にある世界監視研究所のオフィスでずいぶんと長い時間をとってもらったことを、懐かしく思い起こすのです。
B氏はこのようないわゆる有力者や名士以外の、若いジャーナリストや学生にも実に気さくに時間を割いてくれました。
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